舌がんや口腔がんへの栄養アプローチ

有名人の舌癌が公表され話題になっておりますが、今日は舌がんをはじめとした口腔癌への栄養アプローチについて書いてみたいと思います。

大学病院の口腔外科で働いていた頃、舌癌をはじめとした口腔癌の患者さんが多く大学に来院されていました。どの癌も早期発見がその後の予後を決める大きな要素になりますが、舌癌や歯肉癌にしても自分で異常に気づき発見しやすい反面、今回の事例のように口内炎や歯周病などと誤認して対処が遅くなるケースがあるのも事実です。

<がんと口内炎などと見分けるポイント>

1.治りが悪い(1~2週間たっても変化がない、悪化している)

2.患部にしこりのような硬さがある

3.境界が不明瞭

4.しびれがある(進行してくるとしびれが出る場合があります。)

がんが発生する原因はひとつではありませんが、お酒やたばこなどの刺激物や、また歯や被せ物、入れ歯などによる慢性刺激も原因と考えられています。

まずは癌の代謝について考えてみましょう。

<癌により栄養不足になる原因>

癌について栄養の側面から考える時、癌の増殖のエネルギーは嫌気性解糖系に依存しグルコースや体内の貯蔵脂肪が大量に消費されます。癌は大量のグルコースだけでなく自分の成長のために大量のタンパク質を取り込みます。癌が取り込むタンパク質は血液中に含まれるタンパク質です。

※嫌気性解糖系とは、酸素を利用せずに糖をピルビン酸や乳酸に分解しエネルギーを産生する産生経路。(下記の図参照)

血液中のタンパク質には

1 アルブミン 栄養・ホルモン・薬物などと結合し運搬する役割や血液中の浸透圧を調整する役割

2 ヘモグロビン 赤血球に存在し酸素を運搬するタンパク質

3 その他各種酵素やホルモンがあります。

血液中のたんぱく質が不足してくると、筋肉を取り壊し血液中にタンパク質を供給しようとします。これをナイトロジェントラップといいます。癌は自分が大きくなるためにエネルギー源であるブドウ糖を得るためにこのような代謝が促進されてしまいます。そのため癌患者の方は筋肉量の維持のためにはタンパク質の摂取が必要です。

アルブミンが低下すると血液中に水分の保持が難しくなり癌の末期患者さんでは血液中の水分の保持が難しく水分は細胞に漏れ出ていきます。その結果腹水がたまります。また薬物の運搬もしていますので、アルブミンの低値は薬の副作用が強くでるようになります。ヘモグロビンの減少は貧血を引き起こします。

また抗がん剤治療などにより味覚障害や食欲不振が起こり、特に舌癌をはじめとした口腔癌での手術後は嚥下障害も加わることがあり、食事の経口摂取が困難になる場合が多くあります。

また癌の増殖や転移により組織が破壊がすすみ、組織修復のために栄養の需要は亢進しています。

これらの栄養不足を脳神経が大きく影響をうけ神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン系など)のアンバランスを引き起こし、抑うつ状態や癌の疼痛も引き起こすと考えられています。

<口腔がんの術後>

舌癌などの口腔癌では上記で述べたように術後、嚥下障害により食事の経口摂取が難しいケースには経鼻経腸栄養が行われることもあります。これは患者さんの鼻孔から栄養チューブを挿入し食道を通って栄養チューブ先端を胃やもしくは小腸におき、栄養剤を投与する方法です。経鼻経腸栄養は腸を使うことによって腸管粘膜や消化管が活発に動きます。しかし鼻を通る管による心理的ストレスも多くあります。中心静脈栄養に比べ腸を使うことによって小腸粘膜の萎縮を防ぐと言われています。

どちらも術後経口からの食事の摂取が難しい場合、必要不可欠ではありますが、現在の人工栄養は高カロリーとビタミンB群のインバランスによる乳酸アシドーシスや高カロリーによる空腹感の欠如や食欲減退・ビタミン・ミネラルの不足が懸念されます。やはり術前における栄養状態が術後の傷の修復にも大きく影響するため、特に術後経口摂取が難しい部位では、術前の栄養アプローチは重要です。

*乳酸アシドーシスとは

さまざまな原因によって血液中に乳酸が増加し、血液が酸性に傾くこと。傾眠や昏睡などの意識障害や食欲不振・腹痛・吐き気・筋肉痛などがみられます

糖質がエネルギーに代謝されるにはビタミンB群が必要です。高カロリー輸液のような過剰な糖質は相対的なビタミンB群不足を招き、TCAサイクルの抑制から解糖系で大量の乳酸を発生させます。ビタミンB1欠乏により神経症状の出現が懸念されます。また過剰な糖質は癌の増殖を早める恐れもあります。

これだけとればいいという栄養素はありませんが、とくに重要な栄養素の役割について記載します。

<栄養アプローチの一部>

・粘膜の修復には細胞の正常な分化を促すビタミンA

適正なタンパク質(過剰になるとかえって胃腸の状態を悪化させることがあります)場合によっては消化吸収のいいボーンブロススープなどのこまめな補給が患者さんの負担にはなりずらく栄養価が高いのでお勧めです。

※ボーンブロススープ(骨出汁スープ)とは鳥・牛・豚などや魚の骨やあらを煮込んで出汁をとったスープ。ビタミン・ミネラル・アミノ酸やコラーゲンを多く含む

・エネルギー代謝を円滑にするためのビタミンB群

・抗酸化対策としてビタミンC

貧血の改善

・糖質の過剰摂取は控える

貧血が進むとエネルギー産生が効率が悪くなり糖質への欲求が高まりますが、過剰な糖質は癌細胞にとっては悪影響を及ぼします。

多くの患者さんが食欲不振から食べやすい糖質に走る傾向がありますが、それぞれの栄養素の役割を考えるとタンパク質をはじめビタミン・ミネラルの補給がかかせません。術前・術後においても継続的な栄養素の補給がQOL(生活の質)を上げることは間違いありません。

 

 

 

オーソモレキュラー療法に興味のある方、分子栄養学を学びませんか?

オーソモレキュラーの勉強会、初心者対象の入門講座からエキスパート対象までのアドバイザー養成講座をZOOMオンラインにて開催しております。
自宅のパソコンから簡単にセミナーを受けられます。

動画配信は下記の2コース! 入門講座と基礎講座2コース


分子栄養学を更に本格的に学びたい方はこちらの講座をおススメします!