コレステロールと卵
驚くことに日々の診察の中でまだまだ卵がよくないと思い込んでる人がとても多いことに日々驚かされます。かと思うと極端な糖質制限や高たんぱく食のMEC食(Meet肉・Egg卵・Cheezeチーズの頭文字)に偏っている人もいます。この仕事をしてから、また私自身が栄養療法を自分や家族の健康に取り入れ始めてからつくづく思うことは「バランス感覚」です。診察やブログを通して皆さんにこちらの言いたいことを100%理解してもらうことはとても難しいことです。場合によってはこちらが意図していないことが相手に誤解されて受け取られてしまうということがあります。
「タンパク質を少し取り入れてくださいね。」という表現だけでは過剰に高たんぱく食に行き過ぎる方もいらっしゃいますし、「卵も取り入れたらどうですか?」という伝え方では毎日卵ばかりを食べてしまう方もいるのです。細部にまで誤解が生じないためにはやはりしっかりと時間をとってカウンセリングする必要があり、当院では何よりも患者さんとのコミュニケーションに気を遣いしっかりと時間をとってお話しています。何を隠そう私自身が「卵を食べなさい」という指導を昔、受けたときに1日に卵を5個も食べ続け、遅延型アレルギー反応を引き起こしてしまった失敗経験があります。
今のところ基本的に私の考えは「何かの食材さえ食べていたらそれが健康だ」という考えはありません。また除去したほうがいい食材であっても一生食べないということではなく、症状がひどい時は一時的に除去するか控えたらいいですよ。ということでそれを一生食べてはいけないということも意図していません。ただ体調を崩している人の多くが何かに偏りすぎているということは、間違いありません。テレビをつければ毎日のように「健康食材」など放映されていますが、何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。
いまだにに誤解を招く食材としてまだまだ「卵」という食材は国民にとって悩ましい食材のようです。「卵」は悪玉LDLコレステロールを増やし体にはよくない。という認識がまだあるようです。今日は卵とコレステロールの関係つについて書いてみたいと思います。
悪玉コレステロールの原因??
そもそも現在まだまだ悪者扱いされているコレステロールですが、悪玉扱いされ始めたきっかけは1913年のロシアの病理学者による実験でウサギに大量のコレステロールを投与したところ動脈硬化が起こったという実験結果からです。ウサギはそもそも草食動物ですから明らかに人間と同じような生化学反応が起きるのかは疑問が残りますが、このことをきっかけに広くコレステロールが動脈硬化を起こすと世に広まっていきました。
コレステロールと動脈硬化は無関係ではありません。LDLコレステロールが酸化するとリスクはでますし、動脈硬化はその他ホモシステインと呼ばれる単独の動脈硬化因子によっても発症します。
現在の日本の厚生労働省における見解「日本人の食事摂取基準2015年版策定検討報告書 目標値の設定」より引用
動脈硬化に関しては卵(鶏卵)はコレステロール含有率が高く、また日常の摂取量も多いため、卵の摂取量と疾患リスクを調べることにより、コレステロール摂取による疾患リスクが推定されている。
・2013年のメタ・アナリシスによる研究「卵の摂取量と動脈硬化性疾患罹患との関連」⇒関連認められず
・日本人を対象としたコホート研究のNIPPON DATA「卵の摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡率との関連」
⇒関連ない。1日に卵を2個以上摂取した群とほとんど摂取しない群での死亡率は摂取しない群と比べて有意な差は認められていない
・JPHC研究「卵の摂取量と冠動脈疾患との関連」→卵の摂取量と冠動脈疾患との関連は認められていない。
・糖尿病患者においても卵の摂取量と冠動脈疾患罹患との関連は認められていない。また横断的な卵の摂取量と糖尿病有病率との関連も認められていない
・ハワイ在中日経中年男性(45ー68歳)を対象とした観察研究「総コレステロール摂取量と各疾患の死亡率との関連」→食事性コレステロール摂取量と虚血性心疾患死亡率との間に有意な正のの相関を認め、325mg/1000kcal以上の群で虚血性心疾患死亡率の増加を認めている。
※ただし飽和脂肪酸摂取量で調整されていないため、コレステロール摂取自体が原因ではなく同時に摂取する飽和脂肪酸摂取量が関係している可能性がある。
・NIPPON DATA 80「がんとの関連」→女性において卵を2個/日以上摂取する群(総対象者上位1.3%)では卵を1個/日の群に比べて有意ではないが、がん死亡の相対危険が役2倍
・欧米の症例対象研究「コレステロール摂取量と卵巣がんや子宮内膜がん」→正の関連
・アメリカ人対象観察研究コレステロール摂取量最大四分位の群(511mg/日以上)はコレステロール摂取量最小四分位の群(156mg/日以下)と比較して肝硬変又は肝がんになるハザード比は2.45で有意に高い
「結果コレステロールの摂取量は控えめに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標値を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた。ただしコレステロールは動物性タンパク質が多く含まれる食品に含まれるためコレステロール摂取量を制限するとタンパク質不足を生じ特に高齢者において低栄養を生じる可能性があるもので注意が必要である。」
上記が現在の結論のようです。そもそもコレステロールは食事から依存しているのは一部にすぎず、その8割は肝臓で作られています。また家族性の遺伝性高コレステロール血症の人は食べ物とは関係なく、食べ物を控えても改善することにあまり影響は与えません。
LDLコレステロールをもとに
性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン)・コエンザイムQ10・ステロイドホルモン・胆汁・ビタミンDの合成・細胞膜
などが作られます。
決してコレステロール値は低ければ低いほどいいというものではなく、健康で元気であるためには適正なコレステロールが必要です。コレステロール値が低すぎる場合上記にあげたホルモンなどが上手く体で作られていないことが考えられます。不妊症で悩む多くの女性はコレステロール値が低すぎる傾向があります。これはコレステロールをもとに作る女性ホルモンが不足してることが考えられます。また血液検査でLDLコレステロール値が高値だったとしても、その中には(潜在性)甲状腺機能低下の方や閉経後の女性なども含まれている場合があります。
また下記のような研究も行われています。
エピジェネティクスと食品の関連の研究として鶏卵に含まれる代表的な成分であるメチオニンや葉酸がDNAの低メチル化に伴うDNAの損傷などの異常を抑制する効果かあるか。
結果⇒
・葉酸欠乏6日間の培養で細胞核内にDNA損傷の蓄積が起こること。
・DNA複製フォークの進行速度が遅延すること。
・DNAのメチル化レベルが低下
「栄養因子のアンバランス⇒ゲノム上の局所的DNAの低メチル化⇒DNAの損傷⇒染色体不安定化⇒細胞・個体レベルの異常・疾患」という「食とエピジェネティクスと疾患」の重要性と鶏卵由来成分がエピジェネティクス異常を抑制できる可能性を示唆している。
参照「エピジェネティクス異常抑制効果を示す卵由来成分の探索と応用基礎研究」奥村 克純 より
※DNAのメチル化については「妊娠初期の栄養と発達障害」のブログをお読みください。
卵を過剰に避ける人もいれば過剰に摂る人もいます。総合的にみて自分は少しは卵を取り入れるべきなのか、控えるべきなのかはやはり自己判断をさけ専門医に相談するべきです。毎日の何気ない日々の習慣が皆さんを健康に導いているのか、逆の方向に導くのか時間がたたないと結果が現れませんが、分子栄養医学は個体差を各種検査などにより見極め健康増進に寄与できる医学です。